かんそうぶんにっき
[BNB]

◇犯罪旅行 (多岐川恭・桃源ポピュラーブックス)
 犯罪者の逃避行、旅先の美人局、旅にからんだ短篇集。温泉場の艶笑譚みたいな軽妙なものから、裏切りあいのギャングものみたいなやつまでバラエティに富んだ、まあ肩肘はらず軽く読む類のそれだ。たまにやる悪趣味な笑いが炸裂している「パパ、受け取って」が大好き。(9/5)

◇TRICK×LOGIC (スクエニ)
「盗まれたフィギュア」このシステムの練習と、トリックを成し得た人物がつまり犯人なんですよという、犯人当てが徹底した消去法でおこなわれることを知るのに適した良作。
「明かりの消えた部屋で」犯人当てとしてだけ許される内容の典型例。
「雪降る女子寮にて」ひねくれているようで解きやすいし納得できるというのが、たいへん麻耶作品らしい。
「切断された五つの首」けっこうぎりぎりの飛躍で、でもゲームをやる層には最もうけるだろう。このシステムにいちばん向いている方なのでは。
「亡霊ハムレット」大ネタの根幹となる作為の導出が、最も安直なのでかえって気付かないという。
「ブラッディ・マリーの謎」いちばんの問題作というか、ためにする犯人当てというか。真相とされる手段を採るリスクが他に比べて低いとはとうてい思えないので、もっと条件が限定されないと納得できない人が多かろう。
「ライフリング・マーダー」犯人の作為から逆算すれば大ネタだろうと解けるというのがすばらしい。タイトルが伏線だとか、親切にひねくれている。
「目の壁の密室」これは10作の中では一番なんじゃないか、不可能状況が成立する過程を追えば犯人が特定され、そこではじめて記述の妙に気付くという流れ。システムが活きてる。
「Yの標的」厳密な消去法により「どんなに変だろうとこいつしか犯行に及び得ないのだから」という犯人当ての教則から解かれていくが、そうとうむちゃくちゃ。とはいえ出オチに近く楽しい。
「完全無欠のアリバイ」解決篇の文章を読者みずからが考えるというこのシステムにアリバイ崩しはやはり適していて、奇妙な状況やトリックの奇想などいらないのだということがよくわかる。犯人当てとしては無茶してるはずなのに、他作が無茶しすぎなせいで普通に見えてしまうという不思議。(9/2)

◇恋々彩々 (坂岡真・徳間書店)
 単行本2冊目は、広重を主人公とした、実際に広重が描いた絵にまつわる「おんな」の物語。最初2篇くらいはどうも探り探りというか、畑が違うという印象が否めなかったのが、後半ぐっと盛り返した。バラエティに富んだ良短篇集。(8/26)

◇翔騎号事件 (太田忠司・トクマノベルス)
 たいへんシンプルな本格で、かつ俊介シリーズでは珍しく大掛かりなサスペンス描写があって驚くが、たぶんそこにしか注力されていないようで全体はあっさりとしすぎ、シリーズ読者が楽しむしかない話なのは残念に思う。(8/25)

◇紅葉する夏の出来事 (拓未司・宝島社)
 大いなる勘違いをしているのでなければ、シリーズものを中断してまで書く習作ではないと思う。ミステリにあまり関心がないんだということならわかるけど、それではこういう幕引きはよくないだろう、投げっぱなしの事柄が多すぎる。文章の地力があると感じるだけに、いささかもどかしい。(8/24)

◇夜の試写会 (SJローザン・創元推理文庫)
「冬そして夜」の印象が強く残りすぎていて、二人の事件への接し方がスラップスティックめいているものには読んでてちょっとほっこりしてしまった。(8/23)

◇殺戮ゲームの館 (土橋真二郎・メディアワークス文庫)
 こんな露骨な人狼マスターベーションだったとは。上下巻も使ってなぜこんな空っぽの世界を見続けなければならん。(8/23)

◇暁英 (北森鴻・徳間書店)
「蜻蛉始末」「暁の密使」には面白いなあという程度の感想しか持てなかったが、これは驚いた。面白いという枠を超えて、風太郎の良作に迫らんとする完成度と感じる。中途の絶筆といえ万人が読むべき小説。(8/22)

◇帰天城の謎 TRICK青春版 (はやみねかおる・講談社)
 TRICKスピンオフ小説として万全の出来で、かつどこからどうみてもはやみね作品であるという稀有な小説。これは映像化されるべきであろう。(8/17)

◇NECK (舞城王太郎・講談社文庫)
 書き下ろしの1篇のみたいへんな出来で、久々にこの人の小説で気が狂ってると思った。本当に素晴らしい。これが映画ならよかったのに。残りの収録作は、まあふつうの話。(8/12)

◇六とん4 (蘇部健一・講談社ノベルス)
 何事も継続するというのは恐ろしいことだと思った。なるほどこれは孤高の存在である。講談社のサイトにある本当のあとがきがまた、無闇に孤高である。(8/11)

◇痕跡師の憂鬱 (田代裕彦・幻狼ファンタジアノベルス)
 ファンタジーでも土台は変わらんのだなあと嬉しくなる。これは個人的にはSFミステリとしては肯定的にとらえたい気持ち。(8/10)

◇春狂い (宮木あや子・幻冬舎)
 ある人物を軸にしていることが次第に明らかになる連作短篇集、それを意外性とみて官能ミステリーと喧伝しているのかもしれないけれどミステリの文脈で云々するにはいささか無理がある。とはいえ南部樹未子がミステリならばこれもミステリだ、というようなたいへん素晴らしい内容で、嬉しくなった。面白い小説だ。(8/9)

◇不可能犯罪課の事件簿 (Jヤッフェ・論創社)
 企画の勝利で、なんだこりゃというものも含めたいへん楽しい。(8/8)

◇バイバイ・ブラックバード (伊坂幸太郎・双葉社)
 たいへんコミカルな短篇集、映像にしてくださいと言わんばかりである。繭美はどうみてもマツコデラックスなので、マツコをキャスティングできるかどうかにすべてがかかっていると思う。(8/2)

◇ふたりの距離の概算 (米澤穂信・角川書店)
 伏線に力を入れた軽い連作短篇集という感じ、野性時代連載という出し方である限りはこうなる気がするが、しばらく長篇書き下ろしは望めないのかしら。(7/30)

◇死闘館 (伯方雪日・東京創元社)
 手を広げすぎて収拾がつかなくなっているような。連続殺人の趣向としてこれをやりたかったのである、というなら納得するが、得意の武道の分野はどんな奇矯な論理もある程度吸収できる下地があるのだから(また、それを効果的に用いている箇所もあるのだから)焦点をもう少し絞ってくれればいいのに、と思った。特に最後の趣向なんかは完全な蛇足と感じる。(7/28)

◇蛻 (犬飼六岐・講談社)
 殿様が「庶民の暮らしを見てみたい」という理由から作られたかりそめの町。かりそめの町に集められた町人は、殿様が町を遊覧するあいだは立ち退き隠れなければならない。そんな町で起きる殺人事件に、かりそめの人間関係は徐々に瓦解していく。
 時代小説であればこそ説得力のある舞台。各町人の心情の吐露が延々と続くところは、どこかしらいびつなヴィレッジミステリを読んでいるようである。その印象は解決篇のあとの展開で強くなり、英仏のへんてこなミステリと同質の読後感で感心した。謎や驚きで読ませる話ではないけれど、ミステリ読みとしてはこういうの評価しなきゃいかんと思う次第。(7/24)

◇かいぶつのまち (水生大海・原書房)
 ミスディレクションらしいところまったくないけどどうするんだろうと思っていたら、ミステリの狙いはなるほどそっちだったかと安心した。ただ羅針盤メンバーのキャラ小説がしたいのかミステリがしたいのかは判然とせず、今のところは後者に興味ないんじゃないかと思わざるをえない。(7/20)

◇死亡フラグが立ちました! (七尾与史・宝島社文庫)
 事故に見せかける殺し屋という素材は面白いのに、力の入った箇所と投げやりな箇所の落差が激しく、改稿がうまくいっていないんじゃないかという気がする。最後これなら饒舌なままのほうがよかったんじゃんと思うが。(7/18)

◇幽霊足 (松岡弘一・出版芸術社)
 雄雌の化け猫が主人公となるエログロアクション時代劇の2作目。貸本時代のような塩梅が心地よく、刊行当時にチェックしておくべきだったものだと素直に思ったことである。(7/15)

◇デス・ゲーム・パーク (山本俊輔・リンダブックス)
 「バトルランナー(ただし映画版)」+「CUBE(ほか脱出ゲーム群)」と聞いたときに想像する内容そのままの話……かと思いきやもっと斜め上だったざます。(7/13)

◇長弓戯画 (滝田務雄・東京創元社)
 謎の良し悪しなどどうでもよい、賛辞しか思いつかない。これはモダン・ディテクティブ・ストーリーを体現しているじゃないか、ドS編集者の調教以外は推理しかしていない。だからといって会話が説明的にはなっておらず、逆に伏線と手掛かりを効果的に提示できている。主人公を物部太郎と片岡直次郎に置換して読んで違和感ないと思います。今年のガイド本の楽しみができた。(評価する人が他に何をすすめているかを知りたいわけである)(7/11)

◇このどしゃぶりに、日向小町は (鳥飼否宇・早川書房)
 プログレスキーの鳥飼節だけのお話しで、ロックスターが主演の変な映画を観てしまった、というような読後感。倉阪さんの交響楽シリーズのように、お好きな限り続けてほしいところなれど、どんどんミステリからは離れていきそうである。(7/10)

◇この国。 (石持浅海・原書房)
 書下ろしの2篇が、それまで寓話だった世界をみみっちい現実に引き寄せているようで勿体無く感じた。しかしそう感じさせるところも何らかの狙いなのかもしれず、全体の意図をうかがってみたいものである。ただまあ少なからず、こんなところで悪魔将軍メソッドを見るとはという驚きはあった。(6/23)

◇鬼の棲む楽園 (中村啓・宝島社)
 このネタを使うのであれば、15年前に角川ホラー文庫から出ていればそれなりに読まれたろう内容だけれど、今読むにはいささか厳しいと思う。(6/21)

◇光媒の花 (道尾秀介・角川書店)
 理想のひとりとしているであろう久世光彦に着実に近づいているという感じがする。(6/19)

◇Nのために (湊かなえ・東京創元社)
 4人の男女が「Nのために」したことによって起きた事件。内田けんじ的というか後ろの回想になるほど様相が変わるのだけれど、いささか弱い。こういうことやりたいなら、「明日という過去に」くらいの高みを目指せる人なのではないかと思うが。(6/17)

◇さかさ (倉阪鬼一郎・角川ホラー文庫)
 「首のない鳥」と「大鬼神」の中間くらいの、陰惨だけど最後に「ぱあっ」と終わる読みやすい話で、ブラックバーンでも読んでいるかのようである。(6/16)

◇さよならの値打ちもない (Wモール・東京創元社)
 序盤かなり誤導され、素人探偵の存在意義を問うような話なのかと思っていたのが、結局は題名どおりの「さよならの(言葉でとむらう)値打ちもない」うじ虫の話なのだった。序盤の展開をくつがえす衝撃的な事件にはなるほど驚かされたけれど、あまり得手な話ではない。素人探偵が自分の知的興味のために他人の生活をおびやかすことを娯楽としてはなかなか受け止められないからである。(6/15)

◇100人館の殺人 (山口芳宏・東京創元社)
 100人もいて馬鹿しかいないというのがすごい。なんというか、細かい口出しはやめましたという編集者の諦念みたいなものを感じる。どんなことにも何かしら説明をつけようというサービス精神はかうのだが。(6/14)

◇9時間9人9の扉オルタナ (黒田研二・講談社BOX)
 真エンドにもうひと工夫という感じ、元を知らなければなんだよSFかよと憤るところだろう。これは巧い処理をしていると思う。ただオルタナティブなのであれば、純ミステリとして落としてもよかったじゃない、とも少し。(6/11)

◇更年期少女 (真梨幸子・幻冬舎)
 「有名少女マンガのファンクラブの内紛」という、聞いただけで引いてしまう嫌な話。この人が書く「嫌感」はとにかく卑近であって生々しい。ミステリとしても納得できる構成であり、同人サークルその他で何かしら嫌なことを見聞した経験があればぜひおすすめしたい。ただし夢みる「更年期少女」に耐性が無ければ手にとるべきではないことは明言しておく。(6/9)

◇明日の空 (貫井徳郎・集英社)
 さらっとした青春小説で、しかし個人的には、これを「乱反射」の次の小説としてもってくるバランス感がとても好もしい。(6/9)

◇ミステリー・ドラマ (藤ダリオ・角川書店)
 ミステリ映画の大家が手がけようとする、閉鎖されたスタジオの中での生放送のミステリー・ドラマ。そのドラマは本当の「死」によって、アドリブによる再構成を余儀なくされる。
 面白そうな設定だ、といういささかなりとも抱いた期待のやり場がない。(6/8)

◇南部アフリカ旅行殺人事件南アフリカの追憶 (釜谷文子・文芸社)
 日記調で語られる南アフリカ観光ツアーのなか、ケープタウンでツアー客が刺殺される。2時間サスペンス並みには読めるのかと思いきや、まあ、自費出版だよね。(6/7)

◇ファウル (安藤公章・幻冬舎ルネッサンス)
 表紙と帯は堅実な野球ミステリという風情、高校野球界の闇云々の惹句にすわ「あるスカウトの死」みたいな話だったらどうしようと手にとったが、まあ、自費出版だよね。(6/6)

◇貴族探偵 (麻耶雄嵩・集英社)
 素晴らしい短篇集の中で、おそらく白眉は最も目をひく「こうもり」だろう。得意技といってよい手口が、たいへん効果的な使われ方をしている。(6/5)

◇対馬・日掛川殺人事件 (久和勝美・ホーンノベルス)
 前作はまだ楽しい自費出版という感じだったのが、ちょっと普通の自費出版になった。ミステリとは難しいものである。(6/4)

◇災転 (霞流一・角川ホラー文庫)
 純然たるホラーにふだんのミステリより整合性を感じるというのが可笑しい。これとか「夕陽はかえる」の世界が紅門福助と競演するとたいへん面白いミステリになりそう。(6/3)

◇春雷 (坂岡真・幻冬舎文庫)
 このシリーズ、1作目は手探りに思えていたけれど、3作目にしてすばらしい塩梅になった。すべての登場人物が、演出が、ばっちりときまっている。この脚本が昭和30年代の東映にあれば、という感じで(むろんそういう先達なくして生まれぬ小説だが)映像を観たくなる。(6/2)

◇六蠱の躯 (三津田信三・角川ホラー文庫)
「死相が見える」ことがミステリとしての驚きに奉仕していて、本格としても納得できるというのはたいへん素晴らしいことだと思う。あとこのシリーズのほうが刀城シリーズよりも「横溝を読んでいるようだ」という感じがする。「悪魔の降誕祭」とか、通俗味が強いやつ。(6/1)

◇ヤーディ (Vヘッドリー・トランスワールドジャパン)
 ふだん文芸を出さない版元はどうしても気になってしまう。イギリスに暮らすジャマイカンのギャングスタ小説と見えたので期待半分で読んだのだが、ドラッグ小説の第一部終了みたいな終わり方で暗澹とした。ゴインズの「ブラック・デトロイト」が楽しく読める人には面白いであろう。(5/25)

◇小暮写眞館 (宮部みゆき・講談社)
 写真館に持ち込まれる謎が解かれる物語……かと思って読み進めたが、「家族の肖像」小説だというのがいちばん人に説明しやすい形容だろうか。いやー巧いな。泣いちゃうな。(5/20)

◇プロメテウス・トラップ (福田和代・早川書房)
 SE職の手になるハッカー小説ということで期待をもって読んだのだが、ケビン・ミトニック時代の小説だろうかという感じで、もう少し今風のネタを入れるべきだろうと思った。せっかくSFの早川から出ているというのに。(5/14)

◇最後の証人 (柚月裕子・宝島社)
 誰しもが、ははんこれは露骨に避けている描写があるじゃないかここが最後に逆転する叙述トリックなのだなという想像のもと読み進めるはずである。しかしその予想はたいへん不思議な形で裏切られる。ミステリとして評価するにはかなりいびつなのだが、これはとても面白い試みだと思った。(5/13)

◇テネシー・ワルツ (望月武・角川書店)
 テネシー・ワルツのSP盤に端を発する、戦時下のどたばたを利用したミステリ。豪腕で押し切られた感じだが、ミステリ的には「現代パートと過去パートの意外な同一人物」しか驚きを準備していないという、ありがちな残念感。(5/9)

◇狐憑きの娘 (輪渡颯介・講談社)
 話を引き伸ばす手口として、怪談から主要人物の掛け合いに比重をシフトしている印象があって、これは時代長篇をシリーズ化する上では正しいのだろうと思う。程好い謎と様式美とで、のんべんだらりと続いてほしい。(5/6)

◇ハナシがうごく! (田中啓文・集英社)
 さすがに人情噺が大半になっていながら、笑酔亭一門以外の登場人物が出てくるとミステリとしても見逃せず、楽しいことである。(5/5)

◇絵伝の果て (早瀬乱・文藝春秋)
 応仁の乱の裏に蹴鞠仕合が、という伝奇としては魅力的な設定が、どうしてこう粗い仕上がりになってしまうのか。主役級が多い上に視点がころころ変わるのでどこを見ていればいいのかわからず、最後まで散漫な印象が拭いきれなかった。(5/3)

◇伽羅の橋 (叶紙器・光文社)
 梶龍雄の戦時下ミステリを全肯定する者としては褒めざるをえない。書きたいことが多すぎるのが問題なのだろうだけで(そのせいか解決篇のほうが前半より退屈であった)、力のある人に添削されてほしいと心から思う。例えば東の嫁のくだりやエミコさんのくだり、もっと言えばラストの展開なんかは技術でどうこうなるものではないわけだから、こういうのを書ける、というだけで期待は高まるのである。(4/27)

◇完全犯罪研究部 (汀こるもの・講談社ノベルス)
 昔の応募原稿を改稿したものなら納得するが、まさかこれをいま書き下ろしたのだろうか。格好ばかりつけて、純粋な悪人も善人も書きたくないのであればこんな文体を採用するなよと思う。(4/26)

◇幻獣座 (三雲岳斗・講談社ノベルス)
 アンソロジーに入ってた自意識過剰小説の前日譚というか。デスノート以降の小説である、というのが真っ先に頭に浮かんだ印象。(4/24)

◇エデン (近藤史恵・新潮社)
 なるほど単行本の字組で読むと、ケータイ文庫に連載していたのだというのがよくわかる。簡単な謎で易々と長篇をもたせているのがすばらしい、文体がその助けにもなっているように思う。前作の好感そのままに楽しく読んだ。(4/20)

◇学園島の殺人 (山口芳宏・講談社ノベルス)
 講談社ノベルスでは、金持ちがパノラマ島を作りましたという話を延々と続けるのだろうか。ミステリの気がなく冒険活劇として読ませたいなら、せめて視点人物には感情移入できる読者がいそうなキャラを据えるべきと思うのだが。(4/18)

◇オー!ファーザー (伊坂幸太郎・新潮社)
 傑作で、難癖をつけられるところがない。特に前半の家族紹介のくだりの出来はすごくて、ホームコメディの脚本を書かせたらえらいことになるんだろうなと改めて驚いた。(4/15)

◇ミステリ魂。校歌斉唱! (講談社ノベルス)
 乾くるみの暗号ものは過去最高の塩梅の良さでうなる、これ協会賞候補でも納得しますね。しかしそんな余韻を浦賀短篇がなぎ倒していくのであった。芸になるかならないかという分水嶺などとっくに越えていると思うのだが、誰か面白く読めるという人はいるんでしょうか。(4/13)

◇気晴らしのない王様 (Jジオノ・河出書房新社)
 内容はたいへん面白いと思うのだが、とにかく読みづらく、読み通すのに時間がかかってしまった。高野優の訳文で読みたい。(4/12)

◇ミステリ愛。免許皆伝! (講談社ノベルス)
 出来不出来の差が非常に極端なアンソロジー。とりあえず平山短篇は、この著者の小説のなかでも最良に近いものなので未見の方にはぜひすすめたい。(4/11)

◇うさぎ幻化行 (北森鴻・東京創元社)
 たゆたうような不思議な話、幕引きには茫然とするとしか、ちょっと言えない。読者はただ静かに読み終えるのみである。(4/10)

◇賞金屋 (大久保権八・中公文庫)
 元警官の賞金屋(情報屋と私立探偵の中間みたいなかんじ)が猟奇連続殺人の謎に挑む。が、これはいくらなんでもサイコミステリーというのを根本的に勘違いされているとしか思えない。あまりに想像の埒外の解決篇なので、こんな終わり方になるとは心底意外であった。(4/6)

◇怪盗ルパンパン (実相寺昭雄・トクマノベルス)
 映画「歌麿」が想像よりも面白く観られたので余勢をかって、ひどいエロミスだとしか聞かないこの本を読む唯一のチャンスであると思って読んだところ、ミスはなく単なるエロだった。これは愚劣である、この場合の字義は褒め言葉のつもりではなく、心底ひでえもんだと思う。ただミステリの冠が悪いんであって、そもそも官能小説のつもりだったろう。「歌麿」の責めと同じモチーフの場面があって笑った。(4/5)

◇零崎人識の人間関係 戯言遣いとの関係 (西尾維新・講談社ノベルス)
 四作まとめての話になるが、少なからず娯楽小説好きを標榜する大人であれば、このシリーズを読まないのはどうかしている。大人の読物でないととらえている人すらいるだろう。風太郎の忍法帖や半村良の妖星伝を読みはじめる一歩と同じことなのにねと考えるのだけど。これはジョークではなく真面目にそう思っています。(4/3)

◇キョウカンカク (天祢涼・講談社ノベルス)
 中盤までは単なる榎木津ネタなのだろうと想像していたのだが、意外と遊びが多く楽しくはあった。いくらなんでも小説としてはひどいので、もっと編集がしっかりみたほうがよかったんじゃないか。(4/2)

◇レイトン教授と永遠の歌姫 (松井亜弥・小学館ジュニアシネマ文庫)
 結局映画は観られなかったのでノベライズを。脚本から起こしているのだろうノベライズは、かなりばたばたとして視点もぐちゃぐちゃで噴飯しながら読んでいた……のだが、うわあレイトンでこういう話やったんだ。じゃあ仕方ないか、と思える内容ではあった。(4/1)

◇堂場警部補の挑戦 (蒼井上鷹・創元推理文庫)
 ひねくれているという作風を前提におけば後付けの説明を納得できるかというとそんなことはなく、滝田務雄の「田舎の刑事」シリーズへの好感と対極にある。やろうとしていることはたいへん面白いと感じるのだけれど、どうしていつもこういう見せ方になるのか。技巧の無駄遣いという印象をひっくるめて、ひねくれていると受け取るべきなのか。(3/27)

◇SOSの猿 (伊坂幸太郎・中央公論新社)
 久々に、伊坂作品を読んで「わけがわからん」と思った。わたくしはこういうのが読みたかったのだ。オーデュボンに感じた高揚を思い出す。段ボール箱のくだりなどたいへん楽しいではないか。(3/26)

◇殺したのは私です (白根翼・祥伝社文庫)
 TV脚本家のペンネームによる官能サスペンスで、魅力的に見えるタイトルとは裏腹に、ミステリとしては相当にぎりぎりの内容であった。現代の2時間サスペンスに露骨なエロだけ載せた感じ。(3/23)

◇あんだら先生とジャンジャラ探偵団 (田中啓文・理論社)
「じゃりん子チエ」へのオマージュというので、納得。むやみに面白く、また読みやすい。内容も山中恒の衣鉢を継げるのではないかと素直に絶賛したい。小学校の図書室で六年生に読んでほしい本である。おすすめ。(3/22)

◇世界記憶コンクール (三木笙子・東京創元社)
 面白いと思った。特に赤髪連盟に題をとる表題作は、舞台である明治の世に紹介されはじめたホームズ譚を作中に同時代的に持ち込んでおり、たいへん感心した。(3/21)

◇恨み忘れじ (松村比呂美・角川ホラー文庫)
 読みやすく楽しいホラー短篇集、新津きよみの路線などが好きな方にはぴったりだ。(3/20)

◇天才までの距離 (門井慶喜・文藝春秋)
 名実とも佐々木が主人公となって、前作に増して神永が狂言まわし的存在となったのは、それはそうだろうなという感じ。そのため驚きよりは巧さだけが目にとまった。(3/19)

◇セルグレイブの魔女 (高瀬美恵・祥伝社文庫)
 筋だけみると80年代末の本格のようだ。しかしこのネタは今のほうが受け入れられやすいのだろう、当時のアンダーグラウンドが今のポピュラーであるということで。あと解説が必読である。俺はこんなにひどい解説を初めて読んだ。(3/17)

◇レイトン教授と怪盗ゴッド (柳原慧・小学館)
 映画にあわせて急いだ仕事なんだろうやっつけ感はあるものの各所に見どころあり、またしてもよい仕事。二十面相対明智のようなものなのに、脱出法にいちいち物理的な説得力を与えたり伏線を用意していたりするところがすばらしい。一箇所完全に虚をつかれ、そこ伏線なんだと驚いたネタがあった。(3/15)

◇少年鉄人 (山下貴光・宝島社)
 拍子抜けするほどに面白く読めた。ヤングアダルトの書き手として普通に活躍できそうだが、そちらには疎いので出来の絶対評価については態度を保留。少なくともミステリ好きが難癖つけるための小説ではなく、よくできていると思う。(3/13)

◇叫びと祈り (梓崎優・東京創元社)
 素晴らしい短篇集で、年間ベストにあがってくることは間違いないと思われる。最も素晴らしいのは「祈り」であり、こういうの書けるか書けないかで資質が決まるのだと思うし、ホワイダニットを主眼にした連作のまとめとしてはたいへん面白いものだろう。読んでいて頭をよぎったのは柄刀一の奇蹟審問官で、両シリーズが折衷したくらいの話がいまいちばん読みたい部類の本格ミステリだ。(3/11)

◇蝦蟇倉市事件 (東京創元社)
 結局のところ伊坂道尾米澤が格が一段違うのだという印象を受けた。ひとつとても驚いたのは、越谷オサムがたいへん気が狂った話(賛辞)を寄せていることで、これまで抱いていた「巧い青春小説の書き手だけど基本的には予定調和である」という印象が覆された。粗筋だけ聞けば戸川昌子か草野唯雄かというところで、我ら屑どもは絶賛しなければならん。(3/9)

◇再びのぶたぶた (矢崎存美・光文社文庫)
 ぶたぶたさんが主役ですらない回すらも面白い。刑事ぶたぶたに再会できたのはたいへん楽しかった。交渉人役はよく似合う。(2/26)

◇紫同心江戸秘帖 吉原哀切の剣 (大谷羊太郎・静山社文庫)
 何かやるのかと、わりと構えて読んでしまったけれど、ごくごく普通に楽しめた。巨悪と戦うもよし人情ものにするもよし、長く続いてほしいものである。(2/24)

◇黙秘 (小杉健治・集英社文庫)
 文庫書き下ろしの裁判員ものというので、かえってトリッキーなのかしらんと手にとったがいささか小味。それでも黙秘を続ける理由には感心させられてしまった。(2/23)

◇ベヴァリー・クラブ (Pアントニー・原書房)
 いま日本人が好みそうなミステリは1950年代に集中している気がする。そのまま舞台劇になりそうな、登場人物がたった愉快な話であり優雅な気持ちで軽やかに読み終えた。たいへん面白いのだが抑揚はないので、衣装戸棚の女を想像して読んでしまうとインパクトは弱いのかもしれない。3作目も順当に訳されてほしいものである。(2/22)

◇影姫 (飯野文彦・角川ホラー文庫)
 威勢をかって国産の変態小説も読む。「バッド・チューニング」よりも普通のエロ小説というか、正調インキュバスものといっても差し支えなかろうが、とにかく頭が悪い。最後なんかそうとう投げやりで、どこまで本気なのか得体がしれない。まあ読む側は、「処女のはらわた」でも観るように能天気に楽しめばそれでいいのだ。(2/15)

◇湿地帯 (Sローシュ・二見文庫)
 空前の肛門小説。馬鹿みたいにシモの話ばかりする女子高生の「痔の手術」の顛末を延々と読まされなければならない。もう笑って歓迎するしかないよ、日本のケータイ小説とやらもこれくらい突き抜けたことをやってくれりゃいいんだ。(2/14)

◇裏金街 (大久保権八・中公文庫)
 完全にリストから漏らしていた、昨年文庫書き下ろしで登場した五年前の乱歩賞最終候補作。懺悔の読書。目次を見て、前半が長すぎるように見えているところに龍頭蛇尾を危惧し、ほぼそのままの読後感だった。相手が乱歩賞だから枚数制限に押さえられての結果なのかもしれないが、それならせっかく加筆修正したとある成果がこれでは勿体無いと思う。二章の終わりまでは相当に「読める」ので、次の小説の出来を期待し早速購入した。(2/12)

◇虚ろなる冤罪 (霧崎遼樹・徳間文庫)
 死番係シリーズ第二作。個人的には本格というには無理があるが、本格だとみる人もいるだろう。状況から類推される意外な真相という流れだけとりだせば、島田一男の「捜査線ナンバー・ゼロ」とか、それくらいの読める水準にはある話。もっとこなれてほしい。(2/10)

◇パチプロ・コード (伽古屋圭市・宝島社)
 前半はたいへん面白い。よく脇の甘さが出るような技術的な話も、首をかしげるような箇所なくすんなり読める。しかし視点人物が変わって回顧がはじまるあたりから雲行きがあやしくなり、結末に近づくほどに「なぜこんな状況が起きているのか」が解明されていくはずの話が「なんでこんな解決篇に向かうの?」という残念な気持ちになった。単に書き慣れていないための息切れだろうと思うので、次には期待。(2/8)

◇幻想マーマレード (小泉喜美子・太陽企画出版)
 自分で高くしたハードルを盛大になぎ倒すことがままある人だと思う。最入手難の希少な短篇集であるはずが、あーあと嘆きたくなるようなオチをつけた小品ばかりである。ただ「木美子の冒険」、これだけは読まないといけない。これとか光瀬龍との対談をみていたら、この人といちばんメンタリティが近いのは山村美紗なのではないかという気がしてきた。(2/5)

◇影 (Kアルヴテーゲン・小学館文庫)
 たいへんな傑作だ。とはいえこの作家が「人間には影がある」ことを書けば傑作になるのは当たり前である。陰惨で、想像どおりの破滅に向かう話でありながらなお面白い。そしてそれでも人は生きている。こういうすばらしい小説を書く作家が、せっかくミステリ畑で紹介されているのだから、ミステリ好きの人にはぜひ読んでほしいものだ。褒めちぎるミステリ畑の書評家がたくさんいてよさそうなものなのだが。引き合いに出すならハイスミスか。(2/4)

◇ガリバーの贈り物 (中川剛・読売新聞社)
 長年の宿題であった、中川裕朗の憲法第9条ミステリー。作中でも触れられている「時の娘」のように、マッカーサー三原則と憲法9条の成り立ちについて大学教授がアメリカ人留学生の青年とディスカッションする。だが、これはさすがに自身の推論を小説仕立てに読みやすく紹介したものであってミステリではなかろう。(では時の娘はどうなのだといえば、個人的にはミステリではないという解釈である)「This is 読売」連載というのでなんとなく納得する。読み物としては、中川裕朗好きであるという贔屓目を抜きにしても面白く読めた。(2/1)

◇五声のリチェルカーレ (深水黎一郎・創元推理文庫)
 これといってミスディレクションがあるわけでもなく、ぼんやり終わっているようにしか思えないのだけれど、どこが技巧的な仕掛けなのだろうか。併録の短篇も含め、そもそも娯楽小説じゃないのなら先にそう言ってほしいものである。(1/29)

◇扼殺のロンド (小島正樹・原書房)
 素直に「本ミスには確実に載るだろうミステリだ」と思えた。全部が全部ほめられるわけでないにしろ、十三回忌の落胆に比べれば雲泥の差だ。前作もこれくらいにまとまっているのだろうか、早く読まなければ。個人的には梶龍雄作で初体験したたいへん好きなトリックが用いられているのが嬉しく、ともするとそのせいだけで評点があがっているかもしれない。(1/28)

◇さよならドビュッシー (中山七里・宝島社)
 ツェルニーやソナチネの序盤みたいなほのぼのした入りに見えたのが、突然猛烈な展開とともにリストのむちゃくちゃな曲がはじまる2章開幕あたりまではたいへん素晴らしいと思った。しかしまさかこの伏線でこの落としをしないよな、それは杜撰だよな、という想像どおりなのはかなり減点で、推敲の結果の現状なのかどうかは気になる。これだけだと無理してミステリにしているようにしか見えず(おそらく、少女の成長小説としてポプラ社小説大賞あたりに投じるほうが小説の結構は良かったはずだ)、毛色が違うという最終候補のもう1作も早く刊行されてほしいものだ。(1/26)

◇トギオ (太朗想史郎・宝島社)
 長篇として見たら後半の息切れが激しいような。この路線で推すならまだ、時系列をぶったぎった連作短篇に仕立て変えたほうが良かったろうにと思う。純粋に次は何を書くんだろうという興味はある。(1/24)

◇田舎の刑事の闘病記 (滝田務雄・東京創元社)
 ふざけてるように見せているところに伏線を仕込む巧さだけみれば、ユーモアミステリの書き手としてはたいへんな水準にいるのでは。宝石賞みたいな味わいというか。前作よりぐっと評価が上がった。特に巻頭の1篇がいきなり出来がよく驚いた。(1/20)

◇夢厭祓い (牧野修・角川ホラー文庫)
 しばらく対象年齢層が低い本が続いていたので、一般向けは2年ぶりくらい?同じホラー文庫の前作「ネクロダイバー」にも似た夢の中のイメージの奔流はいつもながら素晴らしい。(1/18)

◇噂の女 (結城昌治・角川小説新書)
 同題の集英社文庫とはまるで内容が異なり、「噂の女」「死んでから笑え」にショートショートに近い短篇が5篇はいってて、他で読めないやつがまじってる。結城昌治の脱力してしまうようなオチをわざとぶつけてくる短篇が個人的に大好きであり、読んで楽しい1冊だった。(1/16)

◇難民探偵 (西尾維新・講談社)
 ミステリ的にはどうということもない一発ネタ(ディヴァインやレオブルースが好みそうな筋と言ってしまうと、もはやネタバレか)なのだが小説の巧さでたいへん楽しく読める。「ニンギョウがニンギョウ」の文体が面白かった人には素直におすすめ。(1/14)

◇恋肌 (桜木紫乃・角川書店)
 前長篇のびっくり加減に比べれば、氷平線なみの水準と思う。広くすすめたい。しかし、何にでもエロを持ち込むのはやめりゃいいんじゃないのと思えてならぬ。清も濁もセックスで丸く治まりますというだけではないか。それが真理だとしても、である。ただまあもっと読まれるべき小説であることは確かだ。(1/12)

◇君がいなくても平気 (石持浅海・カッパノベルス)
 「気持ち悪い石持」の極北にある話。中盤以降は読んでる間ずっと眉間にシワが寄っていた。わたくしは悪趣味だがこれを嬉々として読めるほど人間不信ではない。いやあほんとこの人すごい。(1/10)

◇Anniversary50 (カッパノベルス)
 人気作家に「50」をキーにした短篇を書いてもらったアンソロジー。まったく脈絡がないこの本をお祭り的な50周年本としてしまうあたり、最近迷走してるなあという感じがする。講談社ノベルスが同じことを新本格×周年でやるのはまったく驚かないのだが。面白い話が多いのと巻末のリストに価値があるのとで、読むにはおすすめ。(1/10)

◇乱れ夜探り (島本春雄・あまとりあ社)
 裏窓に連載されていた、公儀隠密の甲賀忍者が活躍する短篇集。たいへん読みやすく娯楽SM小説としての出来は十全だ。あまとりあで確か3冊出ているが、雑誌連載ぶんはフォローしきれていないだろう。そういうあたりが勿体無いと思えるくらいの出来ではあり、久保書店の新書なり双葉新書なりで後継していればよかった小説だよなあと素直に思う。(1/9)

◇プールの底に眠る (白川三兎・講談社ノベルス)
 こういうのも出るというのがメフィスト賞の持ち味なのだろうが、出るなら太田時代より前か、さもなくばもっと時間を経てからでないとおかしい内容だと思う。その内容と文体が今と十年は乖離しているように感じられた。出す側の感覚が一周まわってしまっているのか。(1/8)

◇ダイナー (平山夢明・ポプラ社)
 まさか「誰にでもすすめられそうな平山小説」が出るなんて。しかも面白い。もちろん我々屑が讃えるべきは傑作「メルキオールの惨劇」なのだけれど、いやそれにしても面白い。大事なので二回言った。面白いことの証左になるかはわからないが、俺はこれ電車で読んでる間に、降りるべき駅を二度乗り過ごした。そんなこと初めてである。(1/7)

◇≠の殺人 (石崎幸二・講談社ノベルス)
 キャラ小説としての地位を確立したとみればよいのか、掛け合いの面白さはミステリ的な落胆を補って余りある。(1/5)

◇警官の証言 (Rペニー・論創社)
 この構成ならではのトリックだという宣伝文句を掲げてしまうと、まず想像するネタそのままなのは勿体無いことで、もう少し考えた紹介の仕方があるんじゃないのか。ただ先進的であるのは確かで、(おまけの暗号も含め)黄金時代の傑作としてとらえたいという気持ち。「救いの死」などと同様に、受け入れられないだろう人も多いかと思うけれど、あたしゃ個人的には肯定したいのである。(1/3)

◇メリリーの痕跡 (Hブリーン・論創社)
 正体のわからぬ殺人者に脅える船上のサスペンスにしてはスラップスティックで、無国籍アクション映画のような感じがする。内容はロマンスあり「予言」というオカルト的な要素あり、解説の思惑とは裏腹にそりゃカーの後継と紹介されるわなと思った(それこそ「九人と死で十人だ」を連想する)。ただいずれにしろ、内容と発表年代が15年くらい乖離している気がした。66年という発表年を見て、秀作と呼ぶには厳しいと思う。なんとなく原書名で探ってたらハーパーズマガジンにカーが新刊評を書いているようなのだが、当時のカーがどんなこと書いていたんだろう。(12/26)

◇十一月は天使が舞い降りた見立て殺人&十二月は聖なる夜の予告殺人 (霧舎巧・講談社ノベルス)
 このシリーズで破るべきではないお約束をあっさり破ってしまったように思うのだけれど、あと3冊どうするんだろう。内容はネタが多すぎてたいへん駆け足であり、かねてからの読者でないと追いつけないのでは。駆け足なのは前々作くらいからの傾向で、シリーズとしてはもう少しゆったり読ませるほうが良いんじゃないかと思うのだけど。もともとの趣旨は、ミステリ漫画を読んだ若者が次に手をのばしやすい作品なんじゃなかったか。という難癖はともかく、ファンなのでプレミアムセットを買ってしまい、プレミアム版ならではの趣向にはたいへん満足した。なんて無駄な労力をかけているのか!しかも普通の人には単なるミスだとしか見えず、かつその指摘が即ネタバレという無駄な感じ!たまらない。(12/21)

◇水魑の如く沈むもの (三津田信三・原書房)
 シリーズの中ではもっとも構成の気配りがゆきとどいているな、という感想。結局それは、シリーズ読者には先の見通しが良く、ミステリとしては楽しみにくいということだ。もちろん娯楽小説としてはすばらしいと思う、名場面が指折り出てくるし、映像で見てみたいと思う新刊は久しぶりに読んだ。ただ既に様式美の域に達してしまったかと思われ、ふつうシリーズものとして今後ミステリ的な衝撃を与えるためには世界を壊すことになるのだろうが、どういう手法が採られるのかたいへん興味深い。(12/15)

◇後悔と真実の色 (貫井徳郎・幻冬舎)
 慟哭と同じように、特に本格として書いているわけではないのでは?と思いながら読んでいた。わかるでしょ、という前提の上で転がし方を楽しむというか。なので、幕引きがあっさりしているのは逆に驚いてしまった、でも最終節の書き方を見るとこれが正しいのだろうな。ともかく群像劇としては抜群に面白くて、今年読んだエンターテインメントの中では一番のおすすめです。(12/11)

◇死者の裏切り (桂修司・宝島社)
 帯にうたう驚愕のトリックなんてものはどこにもなく、緩い書下ろしノベルスみたいな印象しかない。遺産を狙う馬鹿女の視点を中心にすえたことで読めるサスペンスになっているとは思う。最初は探偵の視点のパートが邪魔と見えたが、まとめ方を見てなるほどこれなら必要か、と感じた。(12/5)

◇四国・坊ちゃん列車殺人号 (辻真先・光文社文庫)
 インタビューしたときに構想をうかがっていた瓜生もの新刊、なるほど露骨な遊びをされていて面白い。このネタわりと見る気がするな、お好きだねえ。竜ちゃんが作家志望で牧薩次に査読してもらっているくだりでは、牧が本格ミステリ大賞を受賞したのだなんてことをぬけぬけと書いてあって、もうサービス精神に脱帽するしかありません。(12/2)

◇マローディープ 愚者たちの楽園 (森福都・講談社ノベルス)
 80年代の軽いノベルスという風情で、読んで楽しく筆力確か、これでポワブリエールくらいのミステリ的な見どころがあればよかったのだが次に期待という程度にとどまった。赤川次郎の、肝心のところで謎の組織が出てきちゃう作品のようというか……。これはこれで好む読者もいるはずなれど、この媒体では「読んだけど本格じゃないよね」みたいなこという読者しかいないのではと思う。もちろん小説は面白いし、解決篇の手筋などはやはりたいへん巧いので、現代ものの長篇書き下ろしは今後も続いてほしい。(12/1)

◇凍原 (桜木紫乃・小学館)
 堅実な小説が読めるのかと思いきや、後半なんじゃこれは……。むしろ奔放に書くとこうなってしまうのか、前作は編集のブレーキがかかった結果だったのかと思わないでもない。それなら全編大通俗のものを書いてほしいところ。あと道東を舞台とすることにミステリ的な必然性があったのは、ちょっと驚いた。(11/22)

◇無貌伝 夢境ホテルの午睡 (望月守宮・講談社ノベルス)
 早くもミステリではないところへ行ってしまったようだが、往年の西澤SFミステリを彷彿とさせるではないかと言われれば、規律が整っていることも確かではある。娯楽小説としての出来は十全、またしてもヒキは抜群で次作も楽しみだ。(11/12)

◇妖精島の殺人 (山口芳宏・講談社ノベルス)
 今さら手垢のついた大ネタだけで上下巻本を出されても、というのが正直な感想。お話しが稚気にあふれているのは15年くらい前のノベルスを読んでいる感覚で嫌いになれないが、大ネタ以外の見どころが無いというのでは困りものだ。1/3くらいの長さに縮めたのを石崎か東川が書いたら面白く読める気がするけれど。さすがにそろそろ、誰か識者が暗闇坂〜アトポスを冒険ロマン小説にカテゴライズし直すべきなのではなかろうか。(11/9)

◇うまや怪談 (愛川晶・原書房)
 たいへんな安定感、このシリーズなら早めに文庫展開すべきと思うのですがね。落語の改作という、作者が課した枷はたいへん厳しいものなのは重々承知のうえで、本作での素晴らしいヒキを受けての次回作の出来を期待してやまない。(11/7)

◇三遊亭円朝探偵小説選 (論創社)
 口述筆記調の大部には難渋したが、読んでよかった1冊。「松の操美人の生埋」のような作が、自分の好きな分野の大衆小説の偉大な源流であることがよくわかった。(10/29)

◇身代わり (西澤保彦・幻冬舎)
 ファンにとって「その後」を知ることになる嬉しい続篇。続くならいったん昔の話かなどと想像していたので、書き下ろしの長編がこういう形になったのは嬉しい。(10/18)

◇夜にはずっと深い夜を (鳥居みゆき・幻冬舎)
 これ今さらながら、もっとミステリ的に、せめて奇妙な味の小説としては評価されてしかるべき短篇集だと思うのですが。(10/17)

◇新参者 (東野圭吾・講談社)
 加賀ものである理由は何だろう、とは思えど、よもやこの人がこれほど万人受けのする物語をえがこうとは。素直に脱帽するほかない。ミステリ的には構成はともかくとして若干食い足りないがそれもどうでもいいさね。巧い。(10/16)

◇犯罪王カームジン (Gカーシュ・角川書店)
 まとめて読むと、なるほどイギリス的な肌触りやオルメスなんかを思わせるナンセンスな笑いから、スレッサーなりホックなりの米国的なユーモアに橋が架かっているようで、あらためて刺激を受けた。長編は訳されないものかしら。(10/15)

◇狩眼 (福田栄一・講談社ノベルス)
 まだ祥伝社文庫や徳間文庫の書き下ろしでこういう警察小説が出ていればおっと思うのだろうが、この作者の小説を期待するうえでは物足りない。いつもの手筋でない新境地なのかもしれないけれど、シリアルキラーであれば誰が犯人でも文句をつけられる筋合いはない、というフーダニットの驚きを別次元に放ってしまったサイコものの系譜にある小説としか読めなかった。といっても伏線は律儀に機能しているだけに、シリーズ化されれば次も読むのだろうと思う。(10/7)

◇花窗玻璃 (深水黎一郎・講談社ノベルス)
 開いていきなりとんでもないすかすかの字組み(森博嗣の四季4部作とか、桃源社の書き下ろし全集2期なみ)で驚いた。しかし読み始めて、この趣向をやりたいのではまあいたしかたあるまいと納得させられてしまったのにはまた驚いた。だからといって、その趣向がミステリ的になにかしら奉仕しているのかというとまったくそんなことはない。好きでやってんだからいいじゃねえかという飛鳥部的発想だろうか。すばらしい。ミステリとしては普通だな、としか言いようがないのだけれど、不思議な余韻の残る小説で嫌いになれない。(10/6)

◇初恋ソムリエ (初野晴・角川書店)
 巻頭の一篇がシリーズの説明を含めるせいもあってか前作の駄目なところが目立ち、あやうく読むのをやめるところだった。しかし二篇目の出来がたいへん良く瞠目させられた。三篇目以降のアベレージも高く前作を超える作品集と思う。前作で苛々とさせられたベタな笑いも、型がおちついてたいへん効果的になっている。1/2の騎士にも感じたことだが、「精神的にあやうい立ち位置の者が前を向いて生きていく」という類の、ふつうに書けば心がねじくれた人間が唾棄する筋を、この作者はどうしてこうも清々しく書けるのだろうか。ともかく、瑕疵など見逃そう、という気になる。(10/5)

◇マネーロード (二郎遊真・講談社)
 師匠筋の宿題で読んだ第二作がたいへん面白く、慌てて受賞作を読んだところが新堂冬樹がダブエストン街道を書いた、とでもいえばよいのか不思議な話だった。全体つうじて「結局何の話だったんじゃい」というのが正直な感想だけれど、しかし巻を置く能わずという道中だったのは確かなことで、もっと読まれるべき本だと素直に思う。脚本畑の方だというのはよく納得できた。(10/1)

◇動機、そして沈黙 (西澤保彦・中央公論新社)
 拾遺集っぽいけどまとまると異常性が際立っているという不思議な短篇集。書き下ろしの表題作は熟練というほかなく、オチは読み始めたところで決まっているようなものなのにすんなり読ませてしまう安定感がある。(9/21)

◇江戸秘芸帖 (西村亮太郎・久保書店)
 一芸を持った人間、ときに月岡芳年や北斎といった有名人を主人公にしてえがかれた艶っぽい短篇をまとめる作品集。他愛ない大衆時代小説である。しかしながら、この人の小説をけっこう読んできていて「これは失敗作だな」と感じた記憶は一度も無い。すごいことだと思う。(9/20)

◇さよならのあとにくる (似鳥鶏・創元推理文庫)
 連作短篇集としては伏線の置き方の工夫がなかなか面白いことをしていると思う。特に第三話の活かし方だ。いろいろな層にそれぞれの見どころがあるのではないか。(9/19)

◇三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人 (倉阪鬼一郎・講談社ノベルス)
 たまたま読んでいる最中の方からある違和感を示唆されていたために、まさかの完全正答。しかしこれはバカホラーであってバカミスではない気がする。(9/18)

◇裁かれざる殺人 (霧崎遼樹・徳間文庫)
 ラノベ出身組の一般小説進出がまた。ミステリ的な趣向は帯があまりにネタバレ気味で萎える、徳間はこの手の杜撰な紹介が他に比べて多い気がする。小説のほうは、序盤の饒舌さはラノベの悪い癖が抜けていないという印象を受けたが、後半こなれて楽しく読めた。登場人物もたっており、堅実にシリーズが続けられるだろうという読後感。(9/17)